1.心臓血管系の変化
(1)心臓
短期的反応
短期とは有酸素性トレーニング実施中や実施直後のこと。
心拍出量が増加
骨格筋など血液を必要とする部位へ血液を供給する必要性が生じる
↓
心臓への刺激や心臓の興奮性が増加して行く
↓
心拍数と1回拍出量が上昇
⇓
心拍出量が増加
心拍出量
心拍出量=1回拍出量×心拍数
1回拍出量の増加理由
- 静脈還流(心臓に戻る血流)が増加する事で、心筋壁が伸張され、それに続く収縮力が増大する。(スターリングの法則)
- 有酸素性運動中、毛細血管が拡張し、末梢抵抗が減少する。
心拍数の増加理由
- 心臓迷走神経活動の減退と心臓交感神経活動の高進による。
- 心拍数は有酸素性運動の強度の増加に伴い、直線的に増加する。
1回拍出量と心拍数の増加形態
1回拍出量は有酸素性トレーニング中、最大酸素摂取量の40~60%で最大に達し、以降(心拍数が最大になるまで)プラトー(停滞)となる。
⇓
最大酸素摂取量の40~60%までは、1回拍出量と心拍数の両方が増加して心拍出量が増加する。最大酸素摂取量の60%以降は、1回拍出量が停滞のまま心拍数の増加で心拍出量が増加する。
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
心臓(心筋)の肥大
心房や心室の容積が増大する。特に左心室が顕著。
(いわゆるスポーツ心臓)
↓
1回拍出量の増加
⇓
心拍出量の増加
参考心臓の肥大
スポーツ心臓と病的肥大がある。
〇スポーツ心臓
容量も心筋も増える。
心筋の重量が増加→心臓に収縮力が向上
〇病的肥大
容量のみが増える。
心筋の重量はあまり増えない→心臓の収縮力は強くない
心拍数の減少
安静時や最大下運動時における心拍数の減少。
血液量の増加
ヘモグロビン(酸素)と血漿(けっしょう。水分)の増加。
⇓
1回拍出量は増加。
心拍数は減少。
最大心拍数は変化なし又は減少
(2)血管
短期的反応
短期とは有酸素性トレーニング実施中や実施直後のこと。
血管の拡張
- 血管拡張により、使っている筋繊維への血流量の増大。
- 骨格筋以外の部位(内臓など)の血管は収縮し、血流量は減少。
- 脳への血流量は保たれる。
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
冠状動脈の横断面積の増加
※冠状動脈
心臓に血液(酸素や栄養)を送る動脈。
毛細血管密度が増加
冷え性の方は抹消の毛細血管が減少傾向にある。その改善として有酸素性運動の実施は有効。
2.代謝の変化
(1)エネルギー機構
短期的反応
短期とは有酸素性トレーニング実施中や実施直後のこと。
運動強度と共に炭水化物の利用増加
運動強度の上昇に伴い脂質利用低下
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
グリコーゲンの貯蔵量増加
筋内のトリグリセリド(中性脂肪)濃度が増加
ミトコンドリアの数・大きさ・活性レベルが増加
グルコース輸送担体(GLUT4)の活性化レベルや濃度が増加
↓
乳酸性作業閾値(LT)が上昇。
(LT曲線が右方にシフトする→LTに至る運動強度が上昇する)
⇓
同じ運動強度において、脂質の利用割合が増加し、より長い時間運動を続けることが可能になる。(糖質の消費が節約される)
※乳酸性作業閾値(LT)
乳酸が血液中に急激に貯まり始める運動強度。
(2)身体組成
短期的反応
急激な変化はない。
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
体脂肪量の減少
- 短時間でも脂肪は燃焼される。
- 短い運動時間の方が運動習慣の定着度が高くなる。
- トレーニング後の食欲増進は、有酸素性トレーニングならば差ほど起きない。
(3)内分泌系
短期的反応
短期とは有酸素性トレーニング実施中や実施直後のこと。
インスリン感受性が上昇
短期反応でインスリン感受性の上昇が起きるのは、その有酸素性エクササイズが高強度(糖質利用度が大きい)である場合だけ。
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
インスリン感受性が上昇
加齢によるインスリン感受性の低下を抑制
3.骨格系の変化
短期的反応
急激な変化はない。
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
骨密度の増加
- レジスタンストレーニング程ではないものの、体重の支持を必要とする有酸素性トレーニングは骨密度の上昇または維持に効果がある。
- 衝撃度が高いエクササイズの方が、より効果的である。(ランニング・縄跳び>ウォーキング・クライマー>エリプティカルトレーナー)
- 体重の支持を必要としない脚エルゴメーターでは効果は小さく、水泳においては更に効果が期待出来ない。
関節の強化
- 長期間の有酸素性トレーニングは、衝撃度が高いものであっても健全な状態の関節軟骨に悪影響を及ぼす事なく、むしろ好ましい影響を及ぼす。関節軟骨の増加。
- 但しこれは、床等の環境が悪くないこと、適切なフォームやテクニックで行うこと、適切な量で行なうこと、最低限の筋力を有することが前提である。
参考女性の骨密度の変化
- 幼年期から徐々に上昇、青年期に急上昇し20代がピーク。
- 30代から徐々に減少し、閉経後数年間では激減が見られる。
4.呼吸器系の変化
短期的反応
短期とは有酸素性トレーニング実施中や実施直後のこと。
呼吸頻度の増加
運動強度の増加に従って、呼吸の頻度は増加する。
長期的適応
長期とは数ヶ月単位のこと。
全肺容量の増加
※全肺容量
その名のとおり肺の全容量であり、肺活量(正しくは努力性肺活量)+残気量(残ってしまう空気)で表される。
全肺容量
=努力性肺活量+残気量
※努力性肺活量
息を最大限吸った後に息を一気に吐き出した時の息の量。通常の肺活量は最大まで息を吸って一息でゆっくり吐き出す量のこと。通常では努力性肺活量と肺活量は同じになるが、喘息や肺気腫などの呼吸器疾患を患っていると息を全て吐き出すことができず努力性肺活量の方が低下。
努力性肺活量
=予備吸気量+予備呼気量+1回換気量
肺でのガス交換が増加
肺を通る血液量が増加する事で、酸素拡散能力が増大。同時に肺換気量が増加し、肺胞の数も増加。
⇓
肺でのガス交換が増加。
ミオグロビンの数が増加
※ミオグロビン
筋肉中にあって酸素分子を代謝に必要な時まで貯蔵する色素タンパク質。
5.有酸素性トレーニングへの適応に影響を及ぼす要因
(1)特異性
有酸素性トレーニングでの重要なポイントは、心拍数を長時間に渡り(最大下レベルで)上昇させておくことである。
(2)年齢
有酸素性能力はトレーニングを続けていれば高齢になっても低下しにくい。
6.オーバートレーニング
(1)有酸素性持久力のオーバートレーニングの一般的指標
- パフォーマンスや最大酸素摂取量の低下。
- 体脂肪率の減少。
- 筋肉痛の増加。
- 最大下運動時の心拍数の上昇。
- 筋グリコーゲンの減少。
- コルチゾール濃度の上昇。
- テストステロン濃度の低下。
- 情緒不安定。(イライラ、やる気がでない)など
(2)対策
適切な休息をとる。
7.ディトレーニング
- ディトレーニングとは,、ケガなどの身体的理由や、仕事の都合や試験などの社会的理由などによりトレーニングをある期間中止すること。
- 有酸素性持久力は、ディトレーニング1~2週間で最大酸素摂取量の低下が始まる。
- 筋持久力は2週間後には減少する。