【21章】整形外科的疾患や傷害を有するクライアントとリハビリテーション

 

1.損傷後の組織修復

(1)炎症期

炎症の兆候

  • 疼痛(とうつう)
  • 発赤(ほっせき)
  • 発熱、熱感
  • 腫脹(しゅちょう)
  • 機能障害(動かなくなる)

 

対処

  • 安静(Rest)
  • 冷やす(Ice)
  • 圧迫(Compression)
  • 挙上(Elevation)

これらの総称をRICE処置という。

RICE処置はスポーツを始め、外傷の緊急処置の基本。四肢の捻挫、打撲、肉離れ、骨折などの応急処置として実施する。

 

※以下、RICE処置の説明は、日本整形外科学会『スポーツ外傷の応急処置』から引用。

 

①安静(Rest)

  • 損傷部位の腫脹(はれ)や血管・神経の損傷を防ぐことが目的。
  • 副子(添木。臨時的に固定する器材)やテーピングにて、損傷部位を固定する。

 

②冷却(Ice)

  • 二次性の低酸素障害による細胞壊死と腫脹を抑えることが目的。
  • ビニール袋やアイスバッグに氷を入れて、患部を冷却。
  • 15~20分冷却したら(患部の感覚が無くなったら)はずし、また痛みが出てきたら冷やす。
  • これを繰り返す(1~3日)。

出典:日本整形外科学会 スポーツ外傷の応急処置

 

③圧迫(Compression)

  • 患部の内出血や腫脹を防ぐことが目的。
  • スポンジやテーピングパッドを腫脹が予想される部位にあて、テーピングや弾性包帯で軽く圧迫気味に固定する。

出典:日本整形外科学会 スポーツ外傷の応急処置

 

④挙上(Elevation)

  • 腫脹を防ぐことと腫脹の軽減を図ることが目的。
  • 損傷部位を心臓より高く挙げるようにする。

出典:日本整形外科学会 スポーツ外傷の応急処置

 

期間

一般的に2~3日継続する。

 

(2)修復期

修復期とは

組織の修復、再生がおこる期間。毛細血管や結合組織が形成される。

 

対処

  • 過剰な筋委縮や損傷部位の関節の変性、関節可動域の低下を予防する事は重要。
  • コラーゲン合成の増加を促進する低強度のストレスを徐々に導入する必要がある。

 

期間

2か月程度。

 

(3)リモデリング期

リモデリング期とは

新しい組織の構造や強度、機能が改善され、回復していく期間。

 

対処

損傷を受けた組織に漸増的な負荷をかけ、特異的な、より高いレベルのエクササイズを加えて行く。

 

期間

2~4ヶ月あるいはそれ以上。

 

 

整形外科的問題とパーソナルトレーナー

各部位の整形外科的問題をかかえるクライアントの対処について以下に纏める。先に『対処』を3つに定義わけする。

 

適用

傷害を起こしたクライアントに有益な働きかけの事。

禁忌

傷害が原因で推奨出来なかったり、禁止されている動作やエクササイズ。

予防

クライアントの機能制限や症状に応じて、エクササイズが行われる事。

 

(1)下背部

腰椎椎間板ヘルニア

背骨をつなぎ、クッションの役割をもつ椎間板の一部が出てきて神経を圧迫し、下肢に痛みやしびれ等が生じる。

出典:医療法人医誠会 医誠会病院  医誠会病院の低侵襲医療

 

禁忌

  • 腰椎屈曲のエクササイズやストレッチング。
  • 腰椎回旋の動作。

 

(例)シットアップ(レジスタンストレーニング)

出典:LIVESTRONG.COM How to Do a Sit Up

 

(例)ニートゥチェスト(ストレッチング)

出典:LIVESTRONG.COM How to Do Knee to Chest Exercises

 

(例)立位体前屈(ストレッチング)

出典:Howcast How to Do a Standing Forward Bend

 

(例)ロータリートルソー(レジスタンストレーニング)

出典:Illinois Campus Recreation Techno Gym Rotary Torso Demonstration

 

適用

  • スクワット、ローイング、デッドリフトなどの様な腰椎伸展動作を含み、脊柱起立筋を動員するエクササイズの実施。
  • アイソメトリクスな腹筋や腰背部の強化。
  • 腰椎のスタビライゼーションプログラム。
  • 殿筋や股関節内転筋群や上背部へのストレッチングの実施。

 

※上記の1つ目について

教科書にはこう書いてあるのでテスト的には上記の通りです。ですが個人的に思うのは、スクワット、デッドリフトの様な椎間板に強い圧縮力がかかるエクササイズは避けた方が良いと考えます。

 

予防

  • 自転車エルゴメーターでの前傾姿勢に注意する。
  • ローイングエルゴメーターであまり背中を丸めないこと。

 

下背部での筋断裂

禁忌

組織回復の早い段階における、腰椎を伸展させるエクササイズや腰椎の前弯を静的に維持しなければならないエクササイズ。

 

(例)ハイパーエクステンション

出典:LIVESTRONG.COM How to Do Back Extensions

 

(例)ベントオーバーロー

出典:Bodybuilding.com Bent Over Barbell Row - Back Exercise - Bodybuilding.com

 

適用

炎症期には安静を保ち、その後段階的に、下背部の筋力強化とストレッチング。腹筋の強化。

 

予防

不適切な姿勢や動作パターンを矯正する必要があるかもしれない。

 

脊椎分離症および脊椎すべり症

脊椎分離症

  • 椎骨の関節突起間部の疲労骨折。
  • ハードな運動をする人に多くみられ、特に腰を反らせることが多いスポーツで多く発生する。
  • 例えば、競泳のバタフライや平泳ぎの選手に多い。
  • 一般の人では5%程度、スポーツ選手では30~40%の人が分離症になっている。

出典:脊椎手術.com 脊椎分離症/すべり症

 

脊椎すべり症

  • 椎骨が前後にずれている状態のこと。
  • 分離症に伴って起こるすべり症(分離すべり症)と、分離に伴わないもの(変性すべり症)とに分けられる。
  • 分離すべり症は椎間関節の分離によって脊椎の安定性が悪くなり(脊椎分離症が進行)、さらに成長期では椎体が変形したり、壮年期では椎間板が変性するなどして発症する。
  • 分離に伴わないすべり症は、椎間板の変性によるものが多く、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきついかんきょうさくしょう)の原因となっている。

分離に伴わないすべり症

出典:脊椎手術.com 脊椎分離症/すべり症

 

禁忌

腰椎の伸展を含むエクササイズ。

 

(例)スクワット

出典:Bodybuilding.com Squat - Leg Exercise - Bodybuilding.com

 

(例)ショルダープレス

出典:Bodybuilding.com Barbell Shoulder Press - Shoulder Exercise - Bodybuilding.com

 

適用

  • 腹部エクササイズ(クランチ、腹斜筋・腹横筋のエクササイズ)
  • 腰背部のストレッチング

 

(2)肩

インピンジメント症候群

腕を挙げたり、ひねったりする時に肩に痛みや引っ掛かりを感じる症状の総称。肩関節の周囲で筋肉や骨がぶつかって生じる。

 

禁忌

  • 頭上での肩の内旋。
  • 肩関節の90°以上の外転(ショルダープレスなど)。特に内旋位での外転(内旋位サイドレイズ、アップライトローなど)。

 

(例)ショルダープレス

出典:Bodybuilding.com Barbell Shoulder Press - Shoulder Exercise - Bodybuilding.com

 

(例)内旋位でのサイドレイズ

出典:james llewellin Charles Glass Style Lateral Raises

 

(例)アップライトロー

出典:Bodybuilding.com Upright Barbell Row - Shoulder Exercise - Bodybuilding.com

 

適用

  • ローテーターカフの強化(Lフライなど)。
  • 菱形筋(りょうけいきん)、僧帽筋中部(シーテッドロー等)、僧帽筋下部(ラットプルダウン等)の強化。

<Lフライ>

肩関節外旋エクササイズ。

出典:Andrew Dixon Lying L Fly

 

予防

  • アップライトローでは肘を肩よりも高く上げない。
  • ラットプルダウンでは首の後ろではなく鎖骨の前に引く。
  • 心臓血管系エクササイズでも、腕を肩よりも高く上げるエクササイズは避ける。

 

肩の前方不安定性(脱臼しやすい)

禁忌

  • 肩関節90°外転位での外旋。
  • 水平外転(前額面よりも腕を後方へ持っていく動作)。

 

(例)ベンチプレス(修正が必要)

出典:Bodybuilding.com Barbell Bench Press Medium Grip - Chest Exercise - Bodybuilding.com

 

(例)ペックデック(修正が必要)

出典:Bodybuilding.com Butterfly - Chest Exercise - Bodybuilding.com

 

(例)ショルダープレスビハインドザネック(修正が必要)

出典:LiftRunBang Press Behind the Neck 225 x 10

 

(例)ラットプルダウンビハインドザネック(修正が必要)

出典:Stefan Ianev Behind the Neck Lat Pulldowns

 

(例)ハンズビハインドバックストレッチング

出典:Emma Hurrell Hands Behind Back Stretch

 

(例)ビハインドネックストレッチング

出典:LIVESTRONG.COM How to Do the Behind the Head Stretch

 

適用

  • ローテーターカフの強化。
  • 三角筋の強化(サイドレイズ、フロントレイズ、アップライトローなど)。

 

予防

肩を使うエクササイズでは、肩関節外転90°以内の下方かつ前額面より前方の範囲内だけとする。

 

(例)ベンチプレスの修正

  • バーを胸につくところまで下さない。
  • 脇を閉め気味に行う。
  • スピネイテッドグリップで行なう。
  • フロアプレスに変更する(床に寝て行う)。

 

(例)ペックデックの修正

パッド又はハンドルを体の後方まで動かさない。

 

(例)ショルダープレスビハインドザネックの修正

ビハインドネックではなく、バーは顔の前を通す。

 

(例)ラットプルダウンビハインドザネックの修正

ビハインドネックではなく、バーは顔の前を通す。

 

(3)膝

膝前部痛

禁忌

  • 膝関節の屈曲90°以上になるクローズドキネティックチェーンエクササイズ(フルスクワット、フルランジなど)。
  • 膝関節の屈曲0~30°でのオープンキネティックチェーンエクササイズ(完全伸展するレッグエクステンションなど)。

 

(例)フルスクワット

出典:ultima15 Toshiki Yamamoto Squat Session Pt. 1

 

(例)フルランジ

出典:Bodybuilding.com How To Do A Walking Lunge with Weight Overhead | Exercise Guide

 

(例)完全伸展するレッグエクステンション

出典:Bodybuilding.com Leg Extensions - Leg Exercise - Bodybuilding.com

 

適用

浅い可動域でのエクササイズ(クォータースクワット、レッグカールなど)。

 

前十字靭帯再建術

禁忌

  • 膝関節の屈曲90°以上になるクローズドキネティックチェーンエクササイズ(フルスクワット、フルランジなど)。
  • 全可動域でのレッグエクステンション。

 

適用

  • 膝関節90°以上屈曲させないクローズドキネティックチェーンエクササイズ(ハーフスクワット、スティフレッグドデッドリフトなど)。
  • 膝関節90°屈曲~45°伸展までのレッグエクステンション、レッグカール。

 

クローズドキネティックチェーンとは

閉鎖運動連鎖のこと。

四肢の遠位側(手や足)が固定され近位側(肩や股関節)が動く運動連鎖。

 

(例)

スクワット

ランジ

プッシュアップ

チンニング

ディップスなど

 

オープンキネティックチェーンとは

開放運動連鎖のこと。

四肢の遠位側(手や足)が動いて、近位側(肩や股関節)が固定した運動連鎖。

 

(例)

レッグエクステンション

レッグカール

サイドレイズ

フライ

プルオーバーなど

 

 

参考膝の靭帯

膝の靭帯は4つある。

前十字靭帯:ACL

後十字靭帯:PCL

内側側副靭帯:MCL

外側側副靭帯:LCL

出典:医療法人 悠康会 函館整形外科クリニック 膝の靭帯

 

 

参考ハードラーズストレッチング

ハムストリングスのストレッチングにハードラーズストレッチングがある。

これは内側側副靭帯(MCL)を伸ばしてしまう危険性があるので以下のストレッチングに代替えすべき。

 

<ハードラーズストレッチング>

後方側の膝の内側側副靭帯が伸びてしまう危険性がある。

出典:Inspire FAE Coaching Hurdler Stretch

 

<代替えストレッチング>

出典:AskDoctorJo Hamstring Stretch in Long Sitting - Ask Doctor Jo

 

 

膝(人口関節)全置換術

禁忌

膝関節を90°以上屈曲させるエクササイズ。

 

 

参考膝の傷害例

半月板損傷

半月板の損傷

 

変形性膝関節症

軟骨のすりへり

 

腸脛(ちょうけい)靭帯炎

腸脛靭帯(太ももの外側)のこすれ。膝外側に痛みがでやすい。

 

棚(たな)障害

膝蓋骨(しつがいこつ。膝の皿)の内側のヒダ(内側滑膜ヒダ)が大きく、膝蓋骨と大腿骨(だいたいこつ。太ももの骨)の間に挟まったり、こすれたりする。

 

膝蓋軟骨軟化症

膝蓋骨(膝の皿)の裏側の軟骨が太ももの骨とこすれあう。

 

膝蓋靭帯炎

膝の曲げ伸ばしを多く繰り返す事で、膝蓋骨(膝の皿)と脛骨(けいこつ。すねの骨)をつなぐ膝蓋靭帯が炎症を起こし、膝蓋骨の下が痛む。

 

 

(4)股関節

股関節全置換術

禁忌

  • 90°以上の股関節屈曲。
  • 中間位を越える股関節内転。
  • 股関節内旋。

 

(5)関節炎

変形性関節症

適用

低強度で高レップスのエクササイズ。

 

参考:骨折、脱臼、捻挫、打撲、肉離れ

(1)骨折

その名のとおり、骨が折れること。

 

開放骨折(複雑骨折)

骨折部位が外に露出したもの。

皮膚を破って骨が外にでる。

細菌感染の危険度が高い。応急処置が悪いと死に至る。

 

閉鎖骨折(皮下骨折、単純骨折)

骨が皮下で折れている。

皮膚を破らず、骨折端の露出がない。

 

剥離骨折

筋肉や腱が強くて骨をはがしてしまう。

 

疲労骨折

骨の同部位に繰り返し加わる小さな力によって、骨にひびがはいったり、ひびが進んで完全な骨折に至った状態。

中足骨(足の甲)、脛骨(けいこつ。すねの骨)、腓骨(ひこつ。脛骨の外側に並行している細長い骨)でよく起きる。

 

若木骨折

子供特有の骨折状態で、折れているが連続性が保たれている。

出典:日本整形外科学会 小児の骨折

 

(2)脱臼

関節が外れる。

腱や靭帯が損傷する場合がある。

 

(3)捻挫

ねじりくじく事をいい、骨と骨を繋ぐ可動部関節周辺部位の損傷、関節を包む関節包や骨と骨を繋ぐ靭帯及び軟部組織(内臓・骨以外の総称)を損傷した状態。

例として『突き指』がある。

 

(4)打撲

体外から大きな打撃が加わった時、傷口を伴わない軟部組織の損傷のこと。

 

(5)肉離れ

急に走ったり、ジャンプなどの動作で、筋肉が強く収縮されるために、筋繊維の一部に損傷が生じたもの。

 

練習問題に挑戦!

 

Copyright© 札幌パーソナルトレーニングZeal-K , 2024 All Rights Reserved.