【18章】前青年期の子供、高齢者、妊婦のクライアント

 

妊婦

  • 妊婦がエクササイズを始める際や、プログラムを修正する際は、必ず医療機関等に相談すべき。
  • エクササイズは妊娠15週から始めて35週までで終える位が望ましい。

 

(1)妊娠中のエクササイズの主な問題点

  • 胎児への酸素やエネルギー基質の供給不足。高強度や多量のエクササイズは赤ちゃんの体重が少なくなる傾向がある。
  • 高体温による胎児仮死や出産時異常の発生。水分摂取、室温管理、休憩が予防となる。
  • 子宮の収縮の増加。

 

※エネルギー基質

エネルギーの原材料となる物質の事。

 

(2)妊娠中にエクササイズを行なう利点

  • 心臓血管系および骨格筋系の機能の発達。
  • 産褥期(さんじょくき)の回復促進。(産褥期とは分娩の終了から妊娠前の通常の状態に戻るまでの期間)
  • 妊娠中の腰痛を軽減。
  • 分娩時間の短縮と陣痛の軽減。
  • 妊娠性糖尿病の予防。(エクササイズ実施により、インスリン分泌・インスリン感受性が向上し、体組織への血糖の取り込みが向上)
  • 体重増加の軽減。

 

(3)エクササイズに対する胎児の反応

  • 比較的強度の低いプログラムが適切かもしれない。(胎児への酸素、エネルギー基質供給不足の予防)
  • エクササイズが早産や流産の原因になる可能性はほとんどない。(適切な強度とフォームが大前提)

 

(4)妊娠中の力学的及び生理学的変化に対する応用

①心臓血管系の反応

有酸素性運動の強度設定

妊娠中は心拍数、酸素摂取量が通常より変化するので、有酸素性運動の強度設定は主観的運動強度(RPE)を用いる。

RPEは12~16が適切。

 

仰臥位のエクササイズ

妊娠4ヶ月目以降は仰向けになると仰臥位低血圧症候群が起きやすいので、以下とする。

  • 仰臥位(ぎょうがい)のエクササイズは妊娠3ヶ月が経つ前にプログラムから外すべき。
  • 妊娠4ヶ月目以降は禁忌。仰向けストレッチも禁止。

 

参考仰臥位低血圧症候群

仰臥位になった際(仰向け)、低血圧になる。

 

【症状】

顔面蒼白、冷汗、息苦しさ、吐き気、頻脈など

 

【発生メカニズム】

仰臥位になった際、妊娠4ヶ月目以降は子宮が大きくなっているので下大静脈が圧迫されて静脈還流(血液が静脈を通って心臓に戻る事)が減る。これにより心拍出量が減少して低血圧となる。

 

仰臥位のエクササイズの代替え

以下に例を示す。

 

ベンチプレス

バーチカル(垂直)チェストプレスに変更。

出典:Women's Strength Nation Setated Chest Press

 

クランチ

腹部に手を添えたアブドミナルカールダウンや側臥位(横寝)のニートゥチェスト、四つ這いでの腹部エクササイズなどに変更。

 

<アブドミナルカールダウン>

  • 下まで下げずに行う(仰向けまでいかない)。
  • 腹部に手を添える(動画は手を添えてませんが)。

出典:Tatum Rebelle Ab Roll Down. A safe alternative to crunches during pregnancy

 

<キャットカウ>

  • 体幹深部の筋群を鍛える。
  • 股関節、下背部、骨盤周辺の緊張を和らげるので疼痛緩和に有効。
  • 背を伸ばしながら息を吸い、丸めながら息を吐く。

出典:NSCA JAPAN Journal Volume 25, Number 5, pages 64-72

 

仰臥位(仰向け)のエクササイズNGということで立位エクササイズを多用すると、静脈還流が減り、目まいなどが起きる事があるの注意。

 

呼吸について

血圧上昇と腹部の圧迫が生じるため、呼吸法『バルサルバ法』は用いない。

 

※バルサルバ法

挙上動作中、一時的に呼吸を止める事。

 

②呼吸器系の反応

疲労困憊にならないように調整すべき。

 

③力学的反応
  • 妊娠後期は身体重心が変化するため、フリーウェイトよりマシン使用が望ましい場合もある。(バランスが変わるので、安定したマシンの方が良い。フリーウェイトを行なう場合はシーテッド(座位)にする)
  • 身体重心が変化するので、バランスやアジリティ(敏捷性)を必要とするエクササイズは注意すべき。
  • プライオメトリクスエクササイズは禁忌。
  • 妊娠中は関節が弛緩しているため、エクササイズはゆっくり行い、関節ダメージが無いようにする。(出産準備のためリラキシンが分泌されるので弛緩する)
  • ストレッチでは伸ばしすぎない。
  • レジスタンストレーニングは可動域を限定しても構わない。
  • 骨盤底筋群のエクササイズ(ケーゲル練習法)は妊娠中において重要なエクササイズの1つ。骨盤部の筋肉の収縮だけでなく弛緩させる方法が身に着くので、より容易に胎児を出産できる。

 

④体温調整
  • 妊娠初期の3ヶ月は、エクササイズに関連した体温上昇がよくみられる。充分な水分補給や適切な着衣、環境の設定が必要。
  • 体温が異常に上昇したり、疲労が見られた場合は、直ちにエクササイズの強度を落とし、クールダウンを開始しなければならない。

 

⑤その他
  • ビタミンAの過剰摂取に要注意。
  • 葉酸は充分に摂取すること。
  • 激しい運動は15分間以内とする。
  • 妊娠初期と後期は母体・胎児が不安定であるので、それらの時期は激しい運動は避けた方が良いであろう。

 

 

2.高齢者

(1)エクササイズの利点

①有酸素性エクササイズの利点
  • カロリー消費や心臓血管系機能の向上。
  • 体重減少により、高血圧、Ⅱ型糖尿病、肥満などの危険性が低減する。
  • 有酸素性機能を維持する事は、心臓血管系疾患、脳卒中、骨粗鬆症、ガン、心理的ストレスなどを低減。

 

②レジスタンストレーニングの利点

心臓血管系疾患の予防

安静時血圧の予防。血中脂質プロフィールの改善(LDL減。HDL増。中性脂肪の減少など)。

 

大腸ガンの予防

腸管の通過速度を上昇させる。

 

Ⅱ型糖尿病の予防

グルコースの体組織への取り込みを高める。インスリン感受性を上昇(=インスリン抵抗性が減)。

 

骨粗鬆症の予防

筋骨格系の機能を維持するのに効果的。

 

関節炎の予防

骨格筋が強いと関節機能が向上する。

(萎縮していた筋に張力がもどり、正しい関節位置になる)

 

うつの予防

うつの軽減にも効果的。

 

筋量減少と代謝率低下の予防

筋組織を再構築し、代謝機能を取り戻すのに非常に有効。

 

※サルコペニア

加齢と共に筋量が減少する事をサルコペニアという。

 

(2)高齢者に対するレジスタンストレーニングのガイドライン

  • 1週間の内で連続しない2~3日において実施すべき。(加齢に伴い身体の回復が遅くなるので青年期よりも頻度を少なくする)
  • 単関節エクササイズ、多関節エクササイズのどちらでも適用OK。
  • 加齢に伴う筋力の低下は下半身で顕著なことも念頭に置いておく。
  • 動作はゆっくりと、可動範囲を大きく行うように指導する。
  • 負荷は当初は軽い負荷から始めて、慣れてきたら若年者と同様に負荷を大きくする。

 

(3)高齢者に対する有酸素性持久力トレーニングのガイドライン

  • 1週間に2~5日。1回20~60分。最大心拍数の60~90%が許容範囲。当然、個別性を考慮すること。
  • 運動強度は心拍数と主観的運動強度(RPE)の両面から決定する事が望ましい。トークテスト(会話の可否テスト)も有効。
  • 主観的運動強度(RPE)の場合、12~14が理想的。
  • 健康な高齢者であれば、最大心拍数の75%以上であっても主観的運動強度(RPE)が低ければ運動強度を下げなくても良いが、逆に心拍数が低くても主観的運動強度(RPE)が高ければ運動強度を下げること。
  • βブロッカー(降圧剤)を服用している高齢者の場合、運動強度の設定は心拍数ではなく、主観的運動強度(RPE)あるいはトークテスト(会話の可否テスト)を用いる。主観的運動強度(RPE)の場合、12~14が理想的。

 

 

 

(4)高齢者のためのスクリーニングとプログラムデザイン

有酸素性エクササイズから開始し、その後、レジスタンスエクササイズを行なう事が望ましい。

 

 

3.青年期直前期の子供

青年期直前期とは、第二次性徴による発達が起こる前の期間を示す。

この年代の青少年は、心臓血管系や筋骨格系の健康を促進する身体活動を日常的に行う事が望ましい。

 

※青年期直前期の年齢

男:6~13歳

女:6~11歳

 

(1)青少年のためのガイドライン

  • 高強度での持続的なエクササイズは、将来のエクササイズに対するモチベーションを低下させてしまう可能性がある。
  • エクササイズの強度をセッション内で変化させたり、サーキットトレーニングなど多種目を行う事が望ましい。

 

(2)青少年のレジスタンストレーニング

有資格者により監視され、適切に計画されたレジスタンストレーニングは安全である。

 

①筋力向上及びその他の利点
  • 子供の頃は、筋肥大に充分なホルモン(テストステロン)の分泌量は無い。よって筋肥大は少量。筋力向上は神経系の適応による。
  • 骨密度の増加。
  • 身体組成の改善。
  • 呼吸循環機能の向上。
  • 動作スキルの発達。

 

②スポーツ傷害の予防

青少年アスリートに対してコンディショニングプログラムを実施する事は、スポーツ傷害を減少させる。

 

③青少年のレジスタストレーニングのガイドライン
  • 参加可能な最小年齢は設定されていないが、指導を受け入れる精神的な成熟、トレーニングの利点と危険性を理解できる力が必須条件となる。
  • 有資格の成人が監督、指導する。子供だけのトレーニングはNG。
  • 単関節エクササイズ、多関節エクササイズ共に実施可能。
  • 6~15レップスを1~3セット行う。但し、最初は10~15レップスの1セットから行う。
  • 頻度は1週間のうち、連続しない2~3日に実施する。
  • 指導者の数は、子供10人程度に1人必要。トレーニング開始数週間は子供8人に1人必要。

 

練習問題に挑戦!

 

Copyright© 札幌パーソナルトレーニングZeal-K , 2024 All Rights Reserved.