【10章】体力評価の選択と管理

札幌パーソナルトレーニング

 

1.評価の目的

エクササイズプログラムの基準を決定する。

 

(1)ベースラインデータの収集

  • 向上、進歩の程度を比較する為の基準値。
  • 現在の長所と短所が把握できる。
  • 適切な運動強度と運動量の設定基準。
  • 明確な目標の設定基準。
  • 傷害のある可能性や禁忌事項の判断基準。

 

(2)目標とプログラム設定

  • 一般的な人の有酸素性能力のテストであれば、ランニングやウォーキングが最適と言える。
  • 日常的に自転車に乗る事の無い人は、自転車によるテストでは過小評価されやすい。(脚が先に疲労するため)
  • 肥満傾向や下肢に問題のある人には、自転車でのテストを選択した方が良い。(自重の負荷がかからないため)
  • 減量プログラムを実施する人にとっては、トレッドミル(俗にいうランニングマシン)テストよりも自転車テストの方が有酸素性能力の向上の程度を正確に測る事が可能である。(トレッドミルは体重が軽くなるだけで記録が向上するから)
  • 普段のトレーニングと運動様式が近い(=特異性が高い)テスト種目を選択した方が、パフォーマンスの高さの変化をより正確に評価する事ができる。

具体例

普段は有酸素性トレーニングでランニングしている人には、自転車を用いた体力測定ではなく、2.4km走や12分間走のようなランニングでの体力測定で評価すべき。

下肢の筋力強化でマシンを用いている人には、フリーウェイトではなくマシンを用いた筋力測定をすべき。

 

 

2.形成的評価と総括的評価

(1)形成的評価

 

①相対基準

  • 個人のパフォーマンスを他者の同じパフォーマンスと比較して評価する手法。
  • パーセンタイルスコアで表される。

パーセンタイルスコア

全集団の中でのランク付け。

例えば、『パーセンタイルスコア90』という事は『上位10%以内の記録』である事を意味する。『パーセンタイルスコア50』の記録は平均記録といえる。

 

(例)身長

 

②絶対基準

最低条件となる基準値を基に評価する手法。

健康基準:

良好な健康状態を維持し、慢性的な疾患の危険性を最小限に保つために必要な最低限のパフォーマンス。

 

過去の自分の記録を基に評価する。

 

(2)総括的評価

トレーニング期間を終えた際の最終評価。

 

 

3.評価に関する専門用語

(1)信頼性・客観性・妥当性

信頼性

あるテストを複数回実施しても同じ結果が出る。

 

客観性

複数の測定者による評価。

 

妥当性

測定の目的に応じたテストを実施する。

具体例

50m走はスピードの評価としては妥当だが、有酸素性能力テストとしては妥当ではない。

 

【50走テスト】

テスト分類

能力:スプリントテスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

最大スピード能力

概要

全力50m走のタイムを計測

 

(2)最大運動負荷テストと最大下運動負荷テスト

最大運動負荷テスト

最大強度&最大努力で行うテスト。

一般人には危険を伴うのでアスリート向けといえる。場合によっては専門施設で行う必要あり。

 

最大下運動負荷テスト

最大強度よりも低いレベルで行うテスト。

安全性が高い。

最大運動負荷テストの結果と必ずしも一致するとは限らない。

 

 

4.信頼性と妥当性に影響を与える要因

(1)クライアントに関連した要因

①健康状態と機能的能力

身体的な制限を理解する必要がある。

その人の普段の運動能力にあったものにする。

具体例

普段はほとんど身体を動かさない高齢者には、2.4km走(最大運動負荷テストに分類)はもちろんのこと、YMCAステップテスト(最大下運動負荷テストに分類)でさえも、強度が高すぎて不適切となる可能性がある。

 

【2.4km走テスト】

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

全力2.4km走のタイムを計測

 

【YMCAステップテスト】

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大下運動負荷テスト(最大より下)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

一定のリズムで踏み台昇降を3分間実施し、直後に心拍数を計測。

 

※全身持久力とは

運動強度が高くなったり運動継続時間が長くなったりしても、体内に十分な酸素を取り入れ利用することができる能力。

 

②年齢

年齢と成熟度はテストパフォーマンスに影響を与える可能性がある。

具体例

有酸素性能力を測定するにあたって、大人と違って子供には2.4km走のような長距離テストは不適切。

子供は身体面や精神面が未成熟であり、ペース配分も上手くできない場合が多い。

 

③性別

男性に比べて女性は上半身の筋力が弱い傾向にある。

具体例

局所筋持久力テストとして懸垂やプッシュアップの回数テストは不適切である。プッシュアップの場合、対処法としては床に膝をついて行うニーリング・プッシュアップで行う。

 

※局所筋持久力テストとは

局所筋持久力とは、最大下の抵抗に対して特定の筋あるいは筋群が反復して収縮する能力の事。局所筋持久力テストは、最大下の抵抗で連続的に限界まで反復させるテストで、反復できた回数をカウントする。

 

④トレーニング前の状態

運動不足やテスト種目に不慣れな場合、正確な結果が出ないばかりか、危険を伴う。

具体例

1RMテスト(1回しか反復できない重量測定)や12分間走(どちらも最大運動負荷テストに分類)は運動不足な人に限らず一般人には危険。

アスリートにおいても同様。有酸素性能力を測定するにあたり、事前に何回か練習させて慣れさせてペース配分をつかませておく必要がある。これを行わないと、ペース配分の失敗による体力の過小評価が起きやすい。

 

【12分間走テスト】

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

12分間で全力で走った距離を測定(出来る限り長い距離を走る)。

 

(2)パーソナルトレーナーに関連した要因

  • トレーナーの経験レベル(スキル、能力)が低い。
  • プロトコル(やり方、手順)を守らない。

(3)器具に関する要因

正確に調整(キャリブレーション)されていない。(機器の基準位置がずれている等)

 

(4)環境要因

  • 高温多湿の環境では、有酸素性持久力のパフォーマンスは低下する。
  • 低温環境では、高齢者、心臓血管系や呼吸器系に問題を抱える人の場合は注意が必要。
  • 標高が高い環境では、有酸素性持久力のパフォーマンスにマイナス影響を及ぼす。適応には10日は必要。
  • 集中力を妨げる要因を抑え、静かで人の出入りの少ない場所で行う必要があり。

 

 

5.体力評価の計画と実施

(1)テストの準備

  • クライアントに内容や準備、評価内容などを伝える。
  • 有用性、妥当性、信頼性、安全性の確認。

①施設の選択と器具の正確性の確認

ラボラトリテスト

最大機能能力を評価する際、専門的な器具を用いて臨床施設にて行われる。

 

フィールドテスト

器具の費用や時間をかけず、容易に行われる測定。実用的であり、現実的である。一般的。

 

②テスト前におけるクライアントへの説明

テスト前に、その内容と手順をきちんと説明しておく。

テスト前に以下の注意点を説明する。

  • テスト前日は激しい運動は避け、十分な休息をとっておく。
  • 適度の食物や水分を摂取する。空腹過ぎず、満腹過ぎず。
  • テストに影響を及ぼす薬物摂取(βブロッカー等)には注意する。
  • 適切な服装、シューズで行う。(ジョギングシューズは前後方向の安定性や保護性は良いが側方においては弱いので、アジリティテストを行うと足関節の内反捻挫を起こしやすい。)

出典:北千葉整形外科サイト 足関節捻挫

 

(2)テストの実施(順番)

step
1
安静時テスト

身体測定のこと。

  • 安静時心拍数
  • 血圧
  • 身長
  • 体重
  • 身体組成等を計測

 

休息不要

 

step
2
非疲労性テスト

その名のとおり、疲労が無いに等しいテスト種目のこと。柔軟性テスト全般や無酸素性・最大筋パワーテスト種目の『垂直跳び』が例になる。

  • シット&リーチ(柔軟性テスト)
  • 垂直跳び(無酸素性・最大筋パワーテスト)等

 

休息不要

 

step
3
敏捷性テスト(アジリティ)

身体動作の機敏さのテスト。身体動作の停止、開始、方向転換を素早く制御して行う能力を評価する。

  • Tテスト
  • エドグレンサイドステップテスト(反復横跳び)
  • ヘキサゴンドリル等

 

休息必要(1~2分程度)

 

step
4
無酸素性・最大筋パワー、最大筋力テスト

無酸素性・最大筋パワーテスト

瞬発力のテスト。高速で筋収縮するときに高い力を発揮させる筋の能力を評価する。

最大筋力テスト

低速での最大筋力を評価する。

  • 3RMクリーン
  • 1RMベンチプレス
  • マルガリア・カラメンテスト(階段駆け上り)等

 

休息必要(5分程度)

 

step
5
スプリントテスト

最大スピード能力を評価。

40ヤード走(37mスプリント)等

 

休息必要

 

step
6
局所的筋持久力テスト

最大下の抵抗に対して特定の筋または筋群が長時間に渡り反復して収縮する能力を評価する。

1分間シットアップテスト等

 

長い休息必要

 

step
7
無酸素性能力テスト

無酸素性持久能力をテストする。比較的短時間の運動においてホスファゲン系と解糖系を複合して生産されるエネルギーの最大生産速度を評価する。

  • 300ヤード(275m)シャトルラン
  • ウィンゲートテスト(自転車を30秒間全力でこぐ)
  • バスケットボールラインドリルテスト(2分の休息を挟んだ4回の平均タイム)等

 

長い休息必要(最低1時間)

 

step
8
有酸素性能力テスト

全身持久力(有酸素性持久力)をテスト。エネルギー源(炭水化物、脂質、タンパク質)の酸化によるエネルギーの最大生産速度の評価する。(体内に十分な酸素を取り入れ利用することができる能力)

  • 2.4km走
  • 12分間走(クーパーテスト)
  • 自転車エルゴメーターテスト
  • YMCAステップテスト(ハーバード・ステップテスト。踏み台昇降。)等

※可能であれば、最大有酸素性能力テストは別の日に実施する事が望ましいが、同日に実施するのであれば、最低1時間の休息の後に行うべき。

 

(3)テスト中の励まし

テスト中にトレーナーが励ますのであれば、公平性を保つために全員に対して励ますこと。

 

(4)テスト中止となる一般的指標

収縮期血圧の大きな減少、過度な血圧の上昇など。

 

 

テスト種目概要

代表的なテスト種目の概要や分類を紹介します。

 

シット&リーチ

テスト分類

能力:柔軟性テスト

強度:-

疲労:非疲労性テスト(疲労しない)

評価項目

股関節と下背部の柔軟性

概要

長座(脚を伸ばして座る)で出来るだけ前屈した距離を計測。

出典:Fitness at Southbank Sit and Reach Test

 

垂直跳び

テスト分類

能力:無酸素性・最大筋パワーテスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:非疲労性テスト(疲労しない)

評価項目

下半身の瞬発力

概要

全力で真上に跳躍した高さを計測。

出典:SKLZ The Vertical Jump Test

 

Tテスト

テスト分類

能力:敏捷性(アジリティ)テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

身体動作の機敏さ

概要

全力でT字のラインを移動(前方走り、サイドステップ、後方走りを含む)した際の所要時間を計測。

出典:Chris Kruger T-Test Agility

 

エドグレンサイドステップテスト

テスト分類

能力:敏捷性(アジリティ)テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

身体動作の機敏さ

概要

10秒間全力で反復横跳びした際に超えたラインの数をカウント。

出典:Human Kinetics Speed, agility and quickness testing--Edgren side step test

 

ヘキサゴンドリル

テスト分類

能力:敏捷性(アジリティ)テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

身体動作の機敏さ

概要

6角形ラインの中央と各ラインを両脚ホップで往復、これを時計回りで全力3周した際の時間を計測。

出典:Mark Tolibas Hexagon Agility Test 1 MOV

 

3RMクリーン

テスト分類

能力:無酸素性・最大筋パワーテスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身の瞬発力

概要

3回しかできないパワークリーンの重量を測定。

出典:CrossFit® The Power Clean

 

1RMベンチプレス

テスト分類

能力:最大筋力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

上半身筋群(主に大胸筋、三角筋、上腕三頭筋)の低速での最大筋力

概要

1回しかできないベンチプレスの重量を測定。

 

マルガリア・カラメンテスト

テスト分類

能力:無酸素性・最大筋パワーテスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

下半身の瞬発力

概要

助走して、出来るだけ早く3段毎に階段を駆け上がり、3段目から9段目までの時間を測定。

 

40ヤード(37m)走テスト

テスト分類

能力:スプリントテスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

最大スピード能力

概要

全力で40ヤード(37m)を駆け抜けた際の時間を測定。

出典:ClevesDonogan 40 Yard Sprint Test

 

1分間シットアップテスト

テスト分類

能力:局所的筋持久力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

最大下の抵抗に対して体幹屈筋群が長時間に渡り反復して収縮する能力

概要

両膝を立てた上体起こしを1分間全力で反復した回数をカウント。

出典:whcsportsstudies One minute sit-up test - instructional video.

 

300ヤード(275m)シャトルラン

テスト分類

能力:無酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

無酸素性持久能力

概要

スタートラインと25ヤードラインの間を全力で6往復した時間を計測。

出典:Simple Speed Coach 300 Yard Shuttle Conditioning Test | Improve SPEED Endurance for Football

 

ウィンゲートテスト

テスト分類

能力:無酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

無酸素性持久能力

概要

30秒間全力で自転車を漕いでる間のパワーを計測。

出典:Kevin Jagger Anaerobic Test | 30 Second Wingate Test On Cycle Ergometer

 

バスケットボールラインドリルテスト

テスト分類

能力:無酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

無酸素性持久能力

概要

4種類のドリル走を全力で連続実施した時間を計測。

 

2.4km走テスト(1.5マイル走)

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

全力2.4km走の時間を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。

 

12分間走テスト(クーパーテスト)

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大運動負荷テスト(最大努力)

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

12分間全力で走った距離を測定し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。

 

Astrand-Rhyming自転車エルゴメーターテスト

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大下運動負荷テスト

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

最大下(全力では無い)の負荷で6分間こぎ、5分目と6分目に心拍数を計測(負荷は体力レベルによって異なる)し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。

⇒一定負荷のままの有酸素性持久力テスト

⇒シングルステージテスト

 

YMCA自転車エルゴメーターテスト

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大下運動負荷テスト

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

最大下(全力では無い)の負荷で6~12分間こぐ。3分毎に負荷を段階的に増やしていき、各段階で心拍数を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。

⇒段階的に負荷が変わる有酸素性持久力テスト

⇒マルチステージテスト

 

YMCAステップテスト(ハーバード・ステップテスト)

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大下運動負荷テスト

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

96拍/分のリズムで踏み台昇降を3分間実施して心拍数を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。ステップ台の高さは30cm。

出典:EX3500 NPU YMCA 3 Minute Step Test

 

Rockport歩行テスト

テスト分類

能力:有酸素性能力テスト

強度:最大下運動負荷テスト

疲労:疲労性テスト(疲労を有する)

評価項目

全身持久力(有酸素性持久力)

概要

1.6kmを出来るだけ速く歩いた時間と直後の心拍数を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。

 

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