1.パーソナルトレーナーの活動範囲
評価(※)、動機付け、教育、トレーニングを行う。加えて緊急事態(ケガ、心肺蘇生法、止血など)に対応する。
※評価項目
健康状態(血圧など)、体力レベル、経験値、食事・栄養状態、体重や体脂肪など。
医療の診断、治療、投薬、処方は絶対にダメ。献立もNG。
2.クライアントの面談目的
(1)クライアントとトレーナーの適合性の評価
①パーソナルトレーナーが伝えるべき内容
- 利用可能なサービスの詳細(何があるか、何をやるか)。
- 教育歴、経験、資格、専門知識、専門分野(得意分野)、さらに運営方針やプログラムの特徴など。
- いつ、どこでサービスを受けられるか等の物理的条件。
②クライアントの意識調査
クライアントの動機や参加意欲を把握する。
(クライアントがどれくらいやる気があるのか)
③相応性と適格性
- 双方が適合性を評価する(トレーナーもみられている)。
- 互いに何らかの不適合があった場合は、契約せずに、その人が別のサービスを選択できるようにする(別のトレーナーを紹介するなど)。
(2)目標についての話し合い
- 目標を立てる。
- 非現実的な目標を要求された場合、それを正す(教育)。
(3)クライアントとトレーナーの契約の成立
- 契約は書面化し、署名も必要。
- 記載内容はサービス、契約当事者の氏名、当事者の期待次項、実施スケジュール、費用、支払い方法など。
キャンセル時のトラブルが多い。キャンセル時の料金をきちんと定義する。キャンセルは極力、電話ではなく履歴が残るメールが良い。
3.参加前の健康評価スクリーニング
スクリーニング=ふるい分け。
(すぐ運動できる人、医師の許可が必要な人)
目的
既往歴、冠状動脈疾患の危険因子、生活習慣因子を特定・把握し、運動開始前に医師への照会を必要とする人を識別すること。
全ての運動参加者に医師の許可を得るのが理想的だが、費用対効果や時間的効率の面から危険性の高い人だけに医師の許可を得るのが現実的。
(1)身体活動適正質問票(PAR-Q)
①PAR-Q
7つの質問に『はい』『いいえ』で答える。
『はい』が1つ以上の場合は医師の診断が必要。
②健康/医療質問票
PAR-Qよりも詳しく既往歴、トレーニング歴、生活習慣(食事や喫煙など)、スポーツ歴、投薬歴を質問するもの。
(2)補足的スクリーニング
①インフォームドコンセント(参加同意書)
インフォームドコンセント(参加同意書)に必須の要素は以下。
1)トレーニングや測定に伴うリスク
伴うリスクを事前に説明し、それに対して同意を得る。
(『~という危険性がある』ことを伝え同意を得る。)
2)トレーニングによる利益
どう体が変わるか。
危険回避のためにトレーナーが最善を尽くす事も併せて記す。
3)個人情報の秘密厳守
クライアントの情報は本人の許可無しに外部に公開できない。
(住所、名前、電話番号などを外にもらさない)
4)プログラム、測定に関する照会と同意の自由
クライアントはいつでも質問でき、参加は任意(拒否可)である事を知らせる。
5)リスクを前提に参加する事の承諾
クライアントが『医師の診断は不要』という態度ならば、リスクはクライアントの責任の元にあるという事を書面に残しておく。
(他に、都合により体に触れる事や、気分が悪くなったらトレーナーに即伝える事を記す。)
インフォームドコンセントの法的防御
本質的損害(予見不可能な誰の過失でもない事故に起因する損害)によって生じた損害から訴訟が発生した場合、インフォームドコンセントが最も優れた法的防御を提供するとされている。
②権利放棄、危険の引受の承諾書(ウェイバー)
クライアントがPAR-Q、スクリーニング書式への記入を拒否しているが、契約とエクササイズへの参加を希望し、なおかつ見たところ健康上の危険がある様に見えず、エクササイズによって利益を得られる可能性がある人には、権利放棄/危険の引受の承諾書(ウェイバー)を採用する事が適切。
インフォームドコンセント、ウェイバーはトレーナーを保護してくれるものなので、どちらか必ず行う事。
パーソナルトレーナーは賠償責任保険に加入していないと活動許可がでないのがほとんど(施設使用許可がでない)。
4.冠状動脈の危険因子、疾患及び生活習慣の評価
(1)冠状動脈疾患の陽性に危険因子
冠状動脈
心筋に血液を供給する血管。
心筋に酸素、栄養を送る重要な血管である。
冠状動脈疾患
いわゆる心臓発作と言われるもの。
冠状動脈に狭窄や閉塞をきたす病気で大別すると『狭心症』と『心筋梗塞』がある。
CAD(Coronary Artery Disease)とも呼ばれる。
該当する以下の項目があったら1つずつカウントする。
①家族歴
父、兄弟、息子の中で55歳以前
母、姉妹、娘の中で65歳以前
に心筋梗塞を起こしたか、冠状動脈の手術をしたか、あるいは突然死している。
②喫煙
現在、喫煙をしている。
禁煙後6か月以内である。
喫煙は高密度リポタンパク質(HDL)を減少させる。
③高血圧症
収縮期血圧が140mmHg以上
または
拡張期血圧が90mmHg以上である。(少なくとも、日をおいた2回以上の測定)
または
降圧剤を服用している。
高血圧によって、血管の損傷、心筋の仕事量が激増する。
④高コレステロール血症
総コレステロール値が200mg/dl(5.2mmol/l)を超えている。
または
HDL値が35mg/dl(0.9mmol/l)未満である。
または
脂質低下薬を服用している。
LDL値が測定されている場合は、総コレステロール値よりも、むしろLDL値が130g/dl(3.4mmol/l)を超えているか、を優先させる。
LDL(悪玉)はコレステロールを放出し、血管の閉塞の一因となる。
HDL(善玉)はコレステロールを肝臓へ運搬する。→代謝して除去する。
主に健康診断からこれら情報が入手できる。
⑤空腹時血糖値
空腹時の血糖値が110mg/dl(6.1mmol/l)以上。(自分で測れる人は、少なくとも日をおいた2回以上の測定)
上記は糖尿病の初期兆候であり、動脈硬化や冠状動脈疾患の危険性が高くなる。
主に健康診断からこれら情報が入手できる。
⑥肥満
BMIが30以上
または
ウェスト周径囲が100cmを超えている。
BMI
Body Mass Indexの略で体格指数と呼ばれる。
BMI=体重[kg]÷身長[m]2
標準値は22。
BMIは脂肪なのか筋肉の割合なのかわからないので、一般的指標と言える。アスリートの場合は体脂肪率で評価する。
参考ウエスト・ヒップ比
ウエスト・ヒップ比(W/H比)は肥満の体型指標として用いられる。
肥満者が『リンゴ型肥満』と『洋ナシ型肥満』のどちらのタイプの肥満かを判断するもの。
ウエスト・ヒップ比(W/H比)
=ウエスト[cm]÷ヒップ[cm]
リンゴ型肥満
上半身肥満。
内臓脂肪型(皮下脂肪より落ちにくい)。
種々の合併症をきたしやすい肥満型。
男性:W/H比1.0以上でリンゴ型肥満。
女性:W/H比0.9以上でリンゴ型肥満。
洋ナシ型肥満
下半身肥満。
皮下脂肪型。
W/H比の比率が低い場合は洋ナシ型肥満と判定。
⑦身体活動の少ない習慣
定期的なエクササイズに参加していない。
最低限の身体活動(ほぼ毎日、合計30分以上の運動)を行っていない。(200~250kcalを消費)
参考トレーニングの効果
安静時血圧の低下
安静時心拍数の低下
中性脂肪の低下
HDL値の上昇
耐糖能の強化
インスリン感受性の強化
(2)冠状動脈疾患の陰性の危険因子
HDL値が60mg/dl(1.6mmol/l)を超えていたら上記(1)陽性の危険因子のカウント数から1を差し引く。
(3)病状と既往歴の確認
①心臓血管系と肺疾患の兆候
心臓血管系と肺の疾患が疑われる主な症状や兆候は以下。
これらが見られるクライアントは運動を開始する前に医師による許可が必要。
- 虚血(血流障害)と思われる胸、首、顎、腕あるいはその他の部位における疼痛や不快感。
- 息切れ。
- めまいや失神。
- 起坐呼吸(※)あるいは発作性夜間呼吸困難。
- 足首の浮腫。
- 動悸あるいは頻脈。
- 間欠性跛行(ふくらはぎや脚の筋肉の血流異常で起こる痙攣)。
- 心雑音。
※起坐呼吸
横になっていると呼吸困難が強まり、座位か後ろに寄り掛かると楽になる。
②代謝系の疾患
糖尿病が有名。
糖尿病とは
糖尿病はインスリンが十分に働かないために血液中を流れるブドウ糖(血糖)が組織に取れ込まれず、血中で増えてしまう病気。
インスリンは、すい臓から出るホルモンで、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っていいる。
糖尿病から様々な病気が派生する(手足の腐り、失明、脳梗塞、心筋梗塞など)。
糖尿病のタイプ
1)Ⅰ型糖尿病
- インスリン分泌能力に欠陥。
- インスリンの分泌が不足又は出なくなる。
- 糖尿病患者のうち10%程。
- 多くの場合、先天性。
2)Ⅱ型糖尿病
- インスリン作用機序に欠陥。
- 組織がインスリンに対して耐性があり(インスリン抵抗性が高く)、インスリンが分泌されても血糖値がなかなか低下しない(インスリン感受性が低い)。
- 生活習慣病の代表格。
- 悪い生活習慣、食習慣(食べ過ぎ)が原因。
- 糖尿病患者の90%程。
- 後天性。
③整形外科的な症状と疾患
- 慢性的な障害(オーバーユース症候群、関節炎、腰痛など)。
- 最近治療や手術を受けた人、骨粗鬆症、関節リウマチ、臼蓋(きゅうがい)形成不全などの人は医師の許可が必要。
臼蓋形成不全
- 浅い股関節。女性に多い。脱臼しやすい。
- 原因は不明だが、成長過程で骨盤の受け皿(臼蓋)の成長が止まってしまう。
- 運動には医師の許可が必要。
- 股関節筋の強化とストレッチで、股関節の安定化と関節可動域を広げ、それを確保する。
④投薬
- 処方薬を服用中の人は運動能力に影響を与える可能性がある。
- β遮断薬(ベータブロッカー:高血圧の人に処方)は正常な心拍数の増加に影響を与える可能性がある。なので、運動強度の設定には心拍数ではなく『主観的運動強度(RPE)』を用いる。
参考主観的運動強度(RPE)
トレーニング強度を管理するために、主観による疲労度を数値化したもの。
代表的なものにボルグ・スケールがある。↓
(4)生活習慣の評価
①栄養摂取と食習慣
- 飽和脂肪酸やコレステロールの多い食事は動脈硬化の進行を促進する。
- アルコールの過剰摂取は心臓血管系疾患の危険性を増加させる。
- 塩分の多い食事は収縮期血圧の上昇をもたらす。
- カロリーの過剰摂取は肥満と糖尿病を招く危険性がある。
②ストレス管理
- ストレスが冠状動脈疾患の危険因子に関与する。
- A型行動パターンが冠状動脈疾患の発症の危険性を高める。
参考行動パターンのタイプ
A型行動パターン
敵愾心(てきがいしん)、抑うつ、『高い欲求と低い抑制』などから生じるストレスを持つ人で、ストレスを感じやすい。
- 野心にあふれている人
- 競争心が高い人
- 時間に追われている人など
B型行動パターン
- のんびりな人
- マイペースな人など
5.結果の解釈
- 4項の(1)~(3)の情報をもとに以下基準に従って危険度を分類する。
- 4項(4)は補足的情報として聴取する。これは危険度の分類や医師への照会に役立つ。
低い危険性
比較的若く(男45歳未満、女55歳未満)、いかなる症状も認められず(4項(3)の症状もなし)、4項(1)(2)のカウントの結果が多くても危険因子が1つしかない人。
中程度の危険性
年齢が中高年(男45歳以上、女55歳以上)の人。
又は
4項(1)(2)のカウントの結果、危険因子が2つ以上ある人。
※年齢が中高年というだけで『中程度の危険性』に分類される。
高い危険性
4項(3)に挙げた症状や兆候がある人。
又は
心臓血管系、肺、代謝系の疾患である事が診断されている人。
心臓血管系疾患
心臓、末梢血管、脳血管などの疾患。
肺疾患
- 慢性的な肺組織の損壊症状
- 喘息
- 肺間質性症状
- 肺胞繊維症など
代謝系疾患
- 真性糖尿病(Ⅰ型、Ⅱ型)
- 甲状腺障害
- 腎臓ないし肝臓疾患など
結果の解釈の例題
Zさんは36歳の男性で、仕事は座業を中心とした金属技師である。彼の父は70歳の時に心臓発作を起こした事がある。Zさんの最近の血圧は136/86mmHgを維持している。総コレステロール値は250mg/dl、HDLコレステロール値は45mg/dlである。最近計測したBMIは30、ウエスト周径囲は102cm、ヒップ周径囲は119cmである。Zさんには如何なる自覚症状も兆候もない。Zさんは7か月前に喫煙を止めたという。
↓Zさんの危険性の分類は?
答え:中程度の危険性
解説
心臓血管系疾患の危険因子が2つある。
1つは高コレステロール血症(総コレステロール200mg/dl以上)であり、もう1つは肥満(ウエスト周径囲100cm以上、BMIが30)。この結果、Zさんは『中程度の危険性』に分類される。
6.医師への照会手続き
3項(1)のPAR-Q(身体活動適正質問票)で1つ以上『はい』があるクライアントは医師の許可が必要。
上記の『医師の許可』についてフローチャート化すると以下になる。
中強度運動
絶対的基準
約3~6METs
又は
4.8~6.4km/hの早歩き
相対基準
VO2Maxの40~60%
高強度運動
絶対基準
6METs以上
相対基準
VO2Maxの60%以上
7.運動処方の手順
(1)処方の手順
(2)体力レベル別の運動処方のガイドライン