1.バイタルサイン(安静時テスト)
(1)心拍数
- 人差し指と中指の先で触診する。
- 頚動脈(けいどうみゃく)や橈骨動脈(とうこつどうみゃく)で測定するのが一般的。
- 運動中や運動後は6~15秒間測定し、1分間あたりの心拍数を求める。(特にアスリートは直ぐに心拍数が下がるので60秒測定だと正確な拍数とならない)
- 安静時は、より長い時間(30秒や60秒)で測定すべき。
一般成人の安静時心拍数
男性:60~80拍/分
女性:男性よりも7~10拍/分高い
(2)血圧
水銀血圧計を使用した血圧測定が推奨される。
水銀血圧計(写真はケンツメディコ株式会社製)
測定手順は以下のとおり。
step
1前腕の配置
肘を伸ばし、前腕を回外させ心臓と同じ高さに保持する。
step
2カフを巻く
カフの下端が肘窩(ちゅうか)の上2.5cmになるように巻く。
※肘窩
肘を曲げたとき、その内側にできるくぼんだ部分。
step
3聴診器を当てる
肘窩上に聴診器を当てる。
step
4カフを空気で加圧する(膨らます)
160mmHg又は予想される収縮期血圧(最大血圧)の20mmHg上まで、ポンプで空気を送りカフを膨らませる。
step
5カフを減圧する
毎秒2~3mmHgのペースで減圧していく。(空気を抜いていく)
step
6血圧を測定
- コロトコフ音を最初に聞き取れた時の圧が収縮期血圧(最大血圧)。
- コロトコフ音が消えた時の圧が拡張期血圧(最小血圧)。
※コロトコフ音
動脈をカフで締め付けたときに"ドクドク"聞こえる血管音。血流が圧力をかけられた部分の動脈内で起こる乱流音。
出典:時事メディカル 血圧のはかりかた
(3)心拍数や血圧に影響する要因
喫煙
心拍数、血圧共に上昇。
カフェイン
心拍数、血圧共に上昇。
高温環境
心拍数が上昇。
高度1200m超
心拍数が上昇。
ストレス
心拍数、血圧共に上昇。
姿勢
仰向け(横になる)で心拍数、血圧共に低下。
日内変動(サーカディアンリズム)
朝起床時には心拍数、血圧共に低下。日中や夜には心拍数、血圧共に上昇。
※日内変動(サーカディアンリズム)
1日の生体リズムの事(バイオリズム)。夕方の方がトレーニングパフォーマンスが上がると言われている。
2.身体組成(安静時テスト)
(1)BMI(体格指数)
身長に対する体重の割合を評価する為の指数。
求め方
BMI=体重[kg]÷身長[m]2
指数の見方
22が標準。25以上で体重過多。30以上で肥満。18.5未満で低体重。詳細は以下。
<18.5:低体重
18.5~24.9:標準
25~29.9:体重過多
30~34.9:肥満(肥満クラスⅠ)
35~39.9:肥満(肥満クラスⅡ)
≧40:極度の肥満(肥満クラスⅢ)
※BMIで『肥満クラスⅠ~Ⅲ』が評価される。
(2)皮脂厚
- 皮脂厚を用いた体脂肪率の評価は妥当性がある。
- 皮脂厚の測定値と算出式で体脂肪率を算出し、標準値と比較して評価する。
- 測定技術は高いものが要求されるが、適切に訓練を受けたパーソナルトレーナーによる測定であれば信頼性が高い。(裏を返せば、計測者によって誤差が大きくなるという事)
- 皮脂厚を測定する部位は測定方式によって異なる。
測定方式及び測定部位
測定方法
- キャリパーで測る。
- 全ての皮脂厚測定は身体の右側で行なう。
- 運動前に測定する。
- 測定部位から1cm離れた位置を指でつまみ、測定部位はキャリパーでつまむ。
キャリパー
出典:新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター 身体組成
測定例:上腕背部
- 右上腕で実施。
- 肩峰と肘頭との中間位置(測定位置)から1cm上に離れた位置を垂直に指でつまむ。
- 肩峰と肘頭との中間位置(測定位置)を垂直にキャリパーでつまむ。
出典:新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター 身体組成
測定例:肩甲下部
- 右肩甲骨で実施。
- 肩甲骨下角から1~2cm内側の位置(測定位置)から1cm離れた位置を斜めに指でつまむ。
- 肩甲骨下角から1~2cm内側の位置(測定位置)を斜めにキャリパーでつまむ。
出典:株式会社アプライドオーフィス 皮下脂肪計
測定例:腹部
- ヘソ右側で実施。
- ヘソから約2cm横の位置(測定位置)から1cm横に離れた位置を垂直に指でつまむ。
- ヘソから約2cm横の位置(測定位置)を垂直にキャリパーでつまむ。
測定例:大腿部
- 右大腿部で実施。
- 大腿部前面の中間部(測定位置)から1cm上に離れた位置を垂直に指でつまむ。
- 大腿部前面の中間部(測定位置)を垂直にキャリパーでつまむ。
(3)生体インピーダンス法、近赤外線法
近赤外線法
近赤外線を照射し、光吸収スペクトルを元に、体脂肪を算出。
※スペクトル
物質が、光の各波長に対してどのくらい吸収するかをグラフにしたのが「スペクトル」。
生体インピーダンス法(BIA)
微弱な電流を流し、生体の抵抗から体脂肪率を算出。一般的な体脂肪計はこの手法を用いている。
筋肉は水分量が多いので電流が流れやすい(=抵抗小さい)。
脂肪は水分量が少ないので電流が流れにくい(=抵抗大きい)。
生体インピーダンス法、近赤外線法ともに誤差が大きい。
(4)その他身体組成測定
ウエスト-ヒップ比(W/H)
- ヒップ周径囲に対するウエスト周径囲の割合。(W/H=ウエスト周径囲[cm]÷ヒップ周径囲[cm])
- 数値が大きいと腹部の脂肪が多い事を示し、心臓血管系や代謝系の疾患の危険性が増してくる。
- 20歳代の標準値は、男0.85程(0.9超えると危険性高い)、女0.75程(0.8超えると危険性高い)。
- 加齢と共に標準値は高くなる。
水中体重法
- 吊られた状態で水中に入り、体が浮く・沈むを吊り具で計測し体脂肪を測定している。(筋肉は沈む、脂肪は浮く。)
- 筋肉、骨、脂肪の比重の違いを利用して、体脂肪を測定。
- この方法による体脂肪測定が最も正確。
- 長所:正確、短所:高額で計測時間が長い。
参考体脂肪の標準
男性:15%
女性:25%
3.心臓血管系持久力(有酸素性能力テスト)
(1)心臓血管系持久力とは
- 全身持久力(有酸素性持久力)のことで、体内に十分な酸素を取り入れ利用することができる能力のこと。
- より具体的にいうと、エネルギー源(炭水化物、脂質、タンパク質)の酸化によるエネルギーの生産能力のこと。
(2)有酸素性能力テスト
例として以下のテストがある。
これらのテストで推定最大酸素摂取量を求め、エネルギー源の酸化によるエネルギーの最大生産速度を評価する。
Astrand-Rhyming自転車エルゴメーターテスト
最大下(全力では無い)の負荷で6分間こぎ、5分目と6分目に心拍数を計測(負荷は体力レベルによって異なる)し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。
⇒一定負荷のままの有酸素性持久力テスト
⇒シングルステージテスト
YMCA自転車エルゴメーターテスト
最大下(全力では無い)の負荷で6~12分間こぐ。3分毎に負荷を段階的に増やしていき、各段階で心拍数を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。
⇒段階的に負荷が変わる有酸素性持久力テスト
⇒マルチステージテスト
YMCAステップテスト(ハーバード・ステップテスト)
96拍/分のリズムで踏み台昇降を3分間実施して心拍数を計測し、推定最大酸素摂取量を導き評価。
又は心拍数基準表と比較して定性的に全身持久力を評価。(平均的か、優れているか、劣っているか)
ステップ台の高さは30cm。
出典:EX3500 NPU YMCA 3 Minute Step Test
12分間走テスト(クーパーテスト)
12分間全力で走った距離を測定し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。
※20歳代標準値
男:2400m以上
女:2200m以上
2.4km走テスト(1.5マイル走)
全力2.4km走の時間を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。
Rockport歩行テスト
1.6kmを出来るだけ速く歩いた時間と直後の心拍数を計測し、推定最大酸素摂取量を算出して評価。
4.最大筋力(最大筋力テスト)
(1)最大筋力とは
- 1回の最大努力で発揮できる力のこと。
- この時、動作のスピードは低速になるので『最大筋力』は低速での筋力を評価する事になる。(Max重量でベンチプレスを行なうとバーベルは低速で挙がっていきますよね。)
(2)最大筋力の大きさ
筋の生理学的筋断面積の大きさや神経系の適応などに左右される。
(3)最大筋力テスト
動的筋力
動的(アイソトニック)筋力の最大筋力テストの例として以下のものがある。
1RMベンチプレス
1回しかできないベンチプレスの重量を測定。
※20歳代標準値
男性:体重の約1倍
女性:体重の約0.4倍
1RMスクワット
1回しかできないスクワットの重量を測定。
1RMレッグプレス
1回しかできないレッグプレスの重量を測定。
※20歳代標準値
男性:体重の約1.9倍
女性:体重の約1.3倍
3RMスクワット
3回しかできないスクワットの重量を測定し、スクワットの推定最大筋力を求める。
- 最大筋力テストは本来、1RM測定にて求めるのが正確ではあるが、危険性が高い(特に一般人)ので妥当ではない。多レップでのRMテストから推定するのが一般的である。
- 一般人レベルいおいては筋力と筋持久力との相関が高いので、筋力評価を筋持久力テストによって行う事が多い。
静的筋力
静的(アイソメトリック)筋力の最大筋力テストの例として以下のものがある。
握力計テスト
出典:竹井機器工業株式会社
背筋力計テスト
出典:新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター 基礎体力測定
5.筋持久力(局所的筋持久力テスト)
(1)筋持久力とは
最大下の抵抗に対して特定の筋または筋群が長時間に渡り反復して収縮する能力のこと。
(2)局所的筋持久力テスト
例として以下のテストがある。
これらのテストで、連続して限界まで反復した回数や時間内に反復出来た回数をカウントし、その筋肉の筋持久力を評価する。
YMCAベンチプレステスト
ある決まった重量のバーベルを決められたテンポ(メトロノーム使用)で何回拳上できるかカウントし、上半身の筋群(主に大胸筋、三角筋、上腕三頭筋)の筋持久力を評価。(テンポどおりにできなくなったら終了。)
出典:Josiah Ledford YMCA Bench Press Test for Fitness Assessment
※重量
男性:80ポンド(36.3kg)
女性:35ポンド(15.9kg)
※テンポ
60bpm(1分間に60拍)。1秒で下ろし、1秒で挙げる。
局所カールアップテスト(パーシャルカールアップテスト)
可動域を限定した上体起こしを決められたテンポ(メトロノーム使用)で何回できるかカウントし、腹筋群の筋持久力を評価。(テンポどおりにできなくなったら終了。)
出典:Tyler Sanjenko Partial Curl up Test, Pushup Test
※可動域
手の中指先の移動距離が10cm。
※テンポ
50bpm(1分間に50拍)。1.2秒で起こして、1.2秒で戻す。
プッシュアップテスト
正しいフォームを維持した腕立て伏せを何回できるかカウントし、上半身の筋群(主に大胸筋、三角筋、上腕三頭筋)の筋持久力を評価。(正しいフォームが維持できなくなったら終了。)
※正しいフォーム
肩・股関節・膝・足首を結ぶ線が一直線を保ったまま行う。
1分間シットアップテスト
両膝を立てた上体起こしを1分間全力で反復した回数をカウントし、体幹屈筋群の筋持久力を評価。
出典:whcsportsstudies One minute sit-up test - instructional video.
シットアップ動作
- 腕を胸の前で交差させ、手で肩を触る。
- 体幹が床と垂直になるまで持ち上げる。(しっかり上げるという事)
- 肩が床に接触するまで体幹を下げる。(しっかり下げるという事)
※標準値
20歳代男性で46回。
柔軟性(柔軟性テスト、非疲労性テスト)
(1)柔軟性とは
関節可動域(ROM)の大きさを指す。
※柔軟性と腰痛
柔軟性が低い事が腰痛の原因になりやすい傾向にあり、NSCAでは特に腸腰筋の柔軟性を重要視しているようではあるが、実際には骨盤や腰椎に付着している全ての筋が原因になり得る。
腸腰筋・大腿直筋など
柔軟性低下によって骨盤を前傾、腰椎の前弯を増す筋肉。
腹筋群・ハムストリングス・大殿筋など
柔軟性低下によって骨盤を後傾、腰椎の前弯を減らす筋肉。
(2)柔軟性テスト
例として以下のテストがある。
これらのテストで、関節角度や伸びた距離などを計測し、その筋肉又は筋群の柔軟性を評価する。
シット&リーチBOXテスト
- 長座(脚を伸ばして座る)で出来るだけ前屈した距離(ゼロ点からの距離)を計測し、股関節伸筋群(ハムストリングス、大殿筋)と下背部の柔軟性を評価。
- そのため、どこの筋の柔軟性が低いのか特定はできない。(ハムストリングスだけの柔軟性を評価する場合はSLRテストを行えばよい)
- 前屈する際は、反動をつけずにゆっくり行い、膝を曲げたり股関節を外旋しないこと。
出典:Fanshawe College Paramedic Fitness Class Sit and Reach Test
ゼロ点
出典:Fanshawe College Paramedic Fitness Class Sit and Reach Test
※20歳代標準値
男性は『つま先から+5cm』、女性は『つま先から+9~10cm』と言われるので、シット&リーチBOXテストの20歳代標準値は以下となる。
男性:31cm(=26cm+5cm)
女性:35~36cm(=26cm+9~10cm)
YMCAシット&リーチテスト
- 長座(脚を伸ばして座る)で出来るだけ前屈した距離(ゼロ点からの距離)を計測し、股関節伸筋群(ハムストリングス、大殿筋)と下背部の柔軟性を評価。
- そのため、どこの筋の柔軟性が低いのか特定はできない。(ハムストリングスだけの柔軟性を評価する場合はSLRテストを行えばよい)
- 前屈する際は、反動をつけずにゆっくり行い、膝を曲げたり股関節を外旋しないこと。
- 両足の踵は30cm程離す。
出典:Blaine Menke YMCA Sit and Reach Test
ゼロ点
出典:Blaine Menke YMCA Sit and Reach Test(両足の踵が開きすぎですね。30cm程離します。)
※20歳代標準値
男性は『つま先から+5cm』、女性は『つま先から+9~10cm』と言われるので、YMCAシット&リーチテストの20歳代標準値は以下となる。
男性:43cm(=38cm+5cm)
女性:47~48cm(=38cm+9~10cm)
ストレートレッグレイズ(SLR)テスト
- 仰向けで寝て(仰臥位)、膝を伸ばしたまま出来るだけ脚を上げ、この時の床面からの角度又は股関節の屈曲角度を計測し、ハムストリングスの柔軟性を評価します。
- 角度の計測にはゴニオメーターを使用します。
出典:Physiotutors Straight Leg Raise or Lasègue's Test for Lumbar Radiculopathy
※ゴニオメーター
分度器のような計測器具。↓